わたしが幼いころは父は遠洋漁業の(マグロ舟)の船長で1年以上家を留守にしていました。
でも弟達も難しい年頃になってきたので、長期の留守は教育上よくないということで、思い切って船を降り、慣れない縫製の仕事を始めました。
まるっきり知らない世界の細かい作業、糸からソックスカバーや下着を編む仕事です。
慣れないので失敗やロスも多く、調子の悪い機械を高くつかまされたり、それは大変な状況だったと思います。
サムライ商法で、絶対もうかることはなく、赤字の累積です。
それでも頑張ったのですが、働くほど借金が増えるので、思い切って仕事を辞めてもらいました。
25年前のことです。
小高い、ブドウ畑の上に位置するここに65坪の工場が建っていました。
仕事を辞めたのだからと言っても税務課は、空撮したら工場の屋根があるから仕事をしてるとみなされて、固定資産税が高いのです。
これって矛盾してると思います。
倉庫代わりに使っていただけなのに、それに取り除くとなるとかなりの費用も発生します。
だけどこのたび思い切って取り壊しました。
業者の方ができたと言ってきたので、跡地を見に行きました。
鉄筋の基礎ががっちりしていて大変だったそうですが、きれいに均されていました。
涼しい風が吹いてきます。
全部で550坪あるはずなのですが、木が生い茂ってきて、狭くなっています。
涼しくなったらこの木を刈ってもらいましょう。
上に道があるはずです。
ここでの仕事を辞めて、病気を発症するまでの数年間が、父の至福の時だったと思います。
詩吟道に励んでいました。
努力の人で、この山の中で早朝からの発声練習を欠かさなかった人です。
この土地できれば売りたいけど、売れなくってもこのまま置いておきましょう、父の形見として。